研究者業績

三谷 雅純

ミタニ マサズミ  (Masazumi MITANI)

基本情報

所属
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 客員教授
学位
理学博士(1988年11月 京都大学)

連絡先
masazumimitanigmail.com
研究者番号
20202343
J-GLOBAL ID
200901033530426355
researchmap会員ID
1000224238

人やヒトの社会や行動の本質を科学的に探る、霊長類学、人間行動進化学に強い興味を持って研究者を続けています。アフリカ中央部(カメルーン、コンゴ共和国)を中心に、鹿児島県屋久島、インドネシア(ジャワ島、スマトラ島、カリマンタン島など)の熱帯林で調査・研究をしてきたフィールド・ワーカーです。

2002年4月に脳塞栓症に陥り、以来、右の半身麻痺と失語があります。自由に森には行けなくなりましたが、代わりに人やヒトの多様性に興味を持って研究を続けています。生涯学習施設の講演や緊急災害情報などの公共放送はどうあれば聴覚失認のある高次脳機能障害者、聴覚情報処理障害者が理解できるのかを、視聴覚実験によって確かめています。

これからは、さまざまな文化的、遺伝的多様性を持った人の作る社会のあり方を研究していきたいと考えています。


論文

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  • 三谷雅純
    障害理解研究 J25 17-31 2025年2月  査読有り責任著者
    失語症などの高次脳機能障害は、脳血管障害や頭部外傷によって発症することがある。まれに、失語症に加え、聴覚失認も併発すると、音声で話すことができず、聞いたことを理解できないという二重の障害を抱えることになる。この二重障害を持つ女性の生活世界を記述し、医療人類学的観点から論じる。調査は、2023年6月から2024年1月にかけて行われた4回の半構造化インタビューからなり、約9時間にわたってICレコーダーで録音された。インタビュー対象者が失語症であり、聴覚失認を呈していることを考慮し、女性の負担をできるだけ少なくするために、音声文字変換装置、電子メモパッド、紙のA4ノートを用いてインタビューを行った。録音は逐語的に行われ、誤った発言や事実誤認がないかを確認するために、女性本人が確認した。聞き取り調査の結果、失語症や聴覚失認の症状を十分に理解していないために、医師や言語聴覚士、あるいは一般の人々から差別を受けていることが明らかになった。地域コミュニティや市民団体は国や県のルールに縛られないため、女性の参加によって市民団体内での扱いが包摂的になる可能性がある。女性は障害を気にすることなく、ICTやその他の補助手段を積極的に使って社会に参加しようとしている。今後、女性と市民団体の相互包摂も可能だと思われる。
  • 三谷雅純
    人と自然 33 93-110 2023年3月10日  査読有り責任著者
    聴覚失認者を対象に,ワークショップ「聴覚失認者に理解しやすい放送方法とはどのようなものなのか」を開いた.当事者26 名,援助者や言語聴覚士26 名が参加した.それ以外にオブザーバーとして放送局のCSR 責任者らが参加した.参加者の生活する世界は非障害者とは異なる可能性があるが,検証の結果,障害の重い当事者の回答を参考意見とし,それ以外は,軽度の聴覚失認者も含めて有効な意見と認められた.ワークショップでは三谷の研究から(1) 肉声の利用,(2) 多感覚統合の利用,(3) チャイムの添付,(4) 男女のアナウンサーで同じことを繰り返すという基準が導かれた.この基準に従って試作した災害放送を聞いてもらうと,非障害者は「男女同じことを言うのが良い」を選んだが,聴覚失認者に有意な回答の差は認められなかった.また実際の災害場面の動画に付ける字幕で非障害者は「発言をすべて文字に起こし,大事なところだけを黄色でハイライトした字幕」が理解しやすいとしたが,聴覚失認者に有意性は検出できなかった.ワークショップの最後に,障害当事者,援助者,言語聴覚士と放送局の担当者(CSR,字幕,映像技術)で字幕放送の可能性について議論した.
  • 三谷雅純
    福祉のまちづくり研究 24(Paper) 25-35 2022年8月31日  査読有り責任著者
    注意喚起のため、チャイムのある場合とない場合で聴覚失認者の反応に違いがあるのだろうか。そのことを確かめるために、「小説の朗読」で新しく作った言語音課題と「視覚刺激と一桁の暗算」の視聴覚実験をチャイムのないことを除いては三谷(2019, 2021)と同じ条件で行った。結果を以前に実施したチャイムのある場合の結果と比べると、チャイムの有無で非障害者と中・重度障害者に有意な差が認められた。チャイムのある非障害者の最低スコアー以上であれば内容を理解できると仮定すると、チャイムがない言語音では軽度障害者と中・重度障害者のおよそ25%が理解できた。さらにチャイムがあれば軽度障害者の50%以上、中・重度障害者の25%以上が理解できた。チャイムがあることによってより多くの聴覚失認者が言語的意味を理解できることが確認できた。
  • 三谷雅純
    福祉のまちづくり研究 22(Paper) 1-11 2021年2月1日  査読有り責任著者
    緊急災害情報は、注意喚起のためのチャイムに続いて言語音で読み上げる災害情報を正確に受け取ることで成り立つ。その時、言語音の認知が困難な聴覚失認者は災害情報を把握できるのだろうか。この疑問に答えるために、聴覚失認のある障害者のべ74名、聴覚失認の自覚のない非障害者のべ42名に対してマルチメディアDAISY形式で作成した言語音課題に答えてもらう視聴覚実験を行った。結果は被験者が言語音の理解が困難であるにも関わらず実験前半は正しい回答が得られた。しかし後半は間違いが目立った。多感覚統合を活用すれば聴覚失認者は通常の言語音でも情報を把握することが可能だが、時間の経過と共に言語音の把握は難しくなる。

MISC

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  • 三谷雅純
    倉田奨励金研究報告書 第 54 集 2023 年度(第 55 回)助成 2025年10月  査読有り招待有り責任著者
    高次脳機能障害の残る失語症者の内、聴覚失認者と「聞き取りが不自由な失語症者」をモデルにそれぞれの生き方を探る。社会に出て行こうとする聴覚失認者は目に見えない「障害者への差別」を受けていた。「聞き取りが不自由な失語症者」は失語症友の会に参加し言語リハビリテーションなどを行っていたが、人権の主張や就労支援活動は行っていなかった。このことは未だ彼らが日本社会に包摂されていないことを示す。包摂されるかどうかは「働ける」か「働けない」かによるところが大きい。この矛盾を解消することが先決である。
  • 三谷雅純
    福祉のまちづくり研究 26(2) 83-84 2024年12月  招待有り責任著者
    人類学者であるわたしは、自分とは異なる人生観や死生観をもった他者の参与観察をすることでその考え方に触れ、その差異の意味を探ることが自分の役割だと心得ている。それは「均質な(架空の)社会」を前提に作った計画では抜け落ちる人びとを、いかに救い挙げるかという自らの役目を自覚してのことである。
  • 三谷雅純
    朝日新聞社ウエブ・マガジン「論座 RONZA」 2023年4月19日  招待有り責任著者
    関東大震災は1923(大正12)年9月1日に起こっていますから、2023年はちょうど100年目に当たります。節目の年ということで、今年は防災、中でも今まであまり語られてこなかった障害者と防災の話題が増えるのではないでしょうか。関東では首都直下型地震が懸念されています。西日本の広い地域では南海トラフ地震が懸念されています。それだけに「大震災」という言葉にナーバスになるのです。このように過去の震災がことさら喧伝されるのは、人びとの間に恐怖がひたひたと迫っている実感があるからではないでしょうか。
  • 三谷雅純
    朝日新聞社ウエブ・マガジン「論座 RONZA」 2023年4月3日  招待有り責任著者
    精神科病院の病床数はわずかに減ったもののほとんど変わっておらず、現在でも30万床以上あります。入院期間も世界に類を見ないほどの長期入院で、1年以上入院していた人が20万人以上もいるのです。そのうえ、受け入れる住民の側にも精神障害者が近くに来るのは嫌だという思いがあります。病院は患者を出さず、地域は精神障害者を拒否するでは、障害者としては立 つ瀬がありません。このような日本の現実と対比して語られるのがイタリアの精神医療システムです。
  • 三谷雅純
    医学書院 web マガジン「かんかん!」 2023年3月20日  招待有り責任著者
    ■人類学者として見た障害者の世界 わたしの発症は2002年4月でしたから、もう20年以上も前のことになります。その間わたしの生活している世界は、時には急激に、時にはゆっくりと変化しました。わたしの身体とこころの変化が大きかったのですが、わたしの変化に応じて周りも変化してきたのです。 発症直後の数年間は、劇的な変化がありました。それを「不幸なこと」と一口では言えないのですが、今から振り返ると、まるでジェットコースターに乗ったような経験だったのです。

書籍等出版物

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  • 三谷雅純 (担当:分担執筆, 範囲:244-248)
    神戸新聞総合出版センター 2023年3月31日 (ISBN: 4343011895)
  • 渡邊邦夫, 三谷雅純 (担当:分担執筆)
    自然環境研究センター 2022年12月
    要 旨 ニホンザルは有史以来、人とは離れた距離をもって暮らしていたと思われる。捕獲圧もあったが、人里周辺が疎林化し草原化するにしたがって、よりその度合いは強くなったと思われる。オオカミや飼い犬の存在も大きかった。こうした構図が激変したのは、戦後の燃料革命による。それを機に人里近くにまでニホンザルが現れるようになり、分布域は拡大し、個体数が増加し、被害は増え続けている。だがこうした認識が一般化したのは、ようやく21世紀が始まった頃である。戦後すぐの時期にはニホンザル保護の必要性ばかりが叫ばれていたが、現在は科学的な個体群管理の重要性が明らかになってきている。 ニホンザルは大きな群れをつくって日中活動する樹上性の哺乳類である(河合1964)。ヒトと同じ霊長類であり、人間が作る作物はほとんど全てが彼らの食物ともなる(辻ほか2018)。ニホンザルの保護管理をめぐる問題は全て、彼らのこの生活様式に由来する。ニホンザルを含む霊長類は、そもそも樹上生活に適応した分類群であり、森林を離れて生活している種・個体群は(ヒトを除けば)例外的な存在でしかない。そしてヨーロッパや北東アジアの中緯度地方では、後氷期に入るとほとんどの地域で早々に姿を消してしまった(高井2005;Li Baoguo et al.2020)。下北半島が現存する霊長類北限の地であるのは、日本近海を流れる暖流の影響もあり、彼らの生存を支える落葉広葉樹林が存在したからである。サルが棲む土地では、当然ながら人間との軋轢が大きかった。ヒマラヤ高地などの寒冷地でも、彼らは生き延びているし、中国の古文献をみても、かなり遅く明・清の時代までは、中国大陸中・南部のはるかに広い地域に多数の種が残存していた。人間が主として生活する低地・平坦地を中心としながらも、徐々に進んだ人間による開発の波とのせめぎ合いが現在の霊長類の分布を決定したと言って過言ではない。本稿では、有史以来ニホンザルがたどってきた途を人間活動との関係で見直しながら、現在がどのようなステージにあるのか、今後どのようなことが起こり得るのかを考察してみたい。
  • 三谷雅純
    春風社 2021年2月 (ISBN: 9784861107030)
  • 三谷雅純, 新宿区立図書館, 釧路市点字図書館
    毎日新聞社出版局 2013年
  • 村田, 浩一, 楠田, 哲士, 三谷, 雅純, その他 (担当:編訳, 範囲:題14章 研究) (原著:Array, Array, Array)
    文永堂出版 2011年8月 (ISBN: 9784830032349)  Refereed

講演・口頭発表等

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  • 三谷雅純
    地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)申請へ向けての勉強会 2024年7月17日 河村宏  招待有り
    エクアドルにおいて、リスク管理にせよ教育にせよ、防災をいかに迅速に行うかという点に主眼が置かれているように感じます。それにICTが役立つという方針で立案されているようです。事実、キトに近いコトパクシ山にせよ、その他の火山にせよ、活動が活発になっているのかもしれません。また豪雨災害や地震、津波などの自然災害も多く発生しているようです。しかし、わたしは基本的に人類学の研究者ですから、直接、災害に関わるには無理があります。ここでは「情報が発信された先の人びとの受け止め方」という点にしぼって、わたしが懸念を持っていることを紹介します。具体的には、わたしのアフリカでの経験を説明します。当然ですがエクアドルには多くの民族が住んでいます。中には現代文明から隔絶した生活を送る民族もいるのではないでしょうか。わたしは、現在、医療人類学の研究をしていますが、医療人類学とは、言ってみれば「患者」「障害者」「難病者」という「現代に現れた異民族」の立場に立って医療を見直し、彼らの人権を主張することに主眼があります。そうすることで医療者に見過ごされがちだった「患者」「障害者」「難病者」の言葉にならない本音を、多数者の言葉に翻訳することで貢献できると考えているからです。一見、わたしのアフリカでの経験はエクアドル・プロジェクトとは関係が無いように聞こえるかもしれませんが、皆さんが見過ごしがちなことも含まれているのかもしれません。
  • 三谷雅純
    青少年育成事業団+大阪府青少年活動財団+アサヒキャンプ合同_キャンプ・リーダー勉強会 2023年11月5日  招待有り
  • 三谷雅純
    青少年育成事業団+大阪府青少年活動財団+アサヒキャンプ合同_キャンプ・リーダー勉強会 2022年2月23日  招待有り
  • 三谷雅純
    カンテレ通信 2022年1月16日 関西テレビ放送株式会社  招待有り
    テレビ局は大地震や豪雨などの大きな災害の発生時には、どこにどんな被害があり、今後どこに危険が迫っているのかを、多くの人に素早くお伝えする役割を担っています。今回のゲストである兵庫県立大学の三谷雅純客員教授が研究してきたのは、聴覚失認者などへの情報伝達についてです。聴覚失認者とは、耳が聞こえないのではなく、音声としては聞こえているけれども、意味として理解することに困難がある方のことです。テレビがどのような工夫をすることで、より多くの人にわかりやすく正確に情報を届けられるのかについて考えます。
  • 三谷雅純
    ワークショップ: 聴覚失認者に 理解しやすい放送⽅法 2021年11月24日 三谷雅純

共同研究・競争的資金等の研究課題

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その他

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